
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
子供の頃はこんなこと考えもせずに
ただ退屈な日々を過ごしていれば良かったのに
今は世界に外へ行けと引っ張られている
どうもしたくないなんてもう言ってられないんだ
そんな言葉が聞こえてくるたびに僕は
耳を塞いで泣いている
変われるんだ
変われるはずなんだ
それでも僕は変われない
いや、変わりたくないんだ
ずっと
叱られてももう構わない
放っておいてくれ
そうしたら僕は、
勝手にどこかへ消えて行けるから
忘れてくれ
…
「で、どうしたいんだよ」
疲れ果てた顔の高梨伊織は、駅前で立ち尽くしていた。
「なにが?」
惚けた顔で聞くのは、それより背の低いスーツ姿の眼鏡をした若者だ。
その気の抜けた返事に痺れを切らした高梨伊織は
声を高くして問いただした。
「だからお前は
俺と付き合ってどうしたいんだよ!」
大声を出したその高校生に、周囲の視線が集まった。
「どうしたいって…」
八霧夏樹は目を丸くしたが、すぐに可笑しそうに
笑い始めた。
「何言ってんの?決まってんじゃん」
えっちだよ、と何気なく言って、八霧はにっこりと笑った。
「それなら何で付き合う必要がある?
体が欲しいだけなら客として俺を買えばいいだろ」
「だって君高いんだもん。聞いたんだよ!
正式な取引だと一晩100万なんだって?」
「安すぎますね。この間あんたに直接電話された時はこれから色々情報提供してもらうつもりで値引きしてあげたんですけど」
「なるほどねえ、しっかり僕をこき使うつもりじゃないの」
「あんたこそ、高いからって付き合ってタダでやらせろって本当に下衆ですね」
「わかった!そんなに付き合うのが嫌なら僕だけ特別価格ってことで頼むよ!ね!」
「…あんたの働きによりますね」
「まーかせてよ!お金のためならなんでもやれるからさあ!」
「…ほーお」
なんでもねえ、と笑ったその顔に寒気がした。
そして二人は今、炎天下の草むらの中にいた。
「で、なんで僕は自分の家の庭の草むらで女装してしゃがんでるのかなあ」
