
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
八霧はうんざりした顔で首を振った。
「何かの拍子で見つかった時、あんたの友人だとかなんか言えばとりつくろえるかと」
庭の向こうに立つ豪邸にはテラスがついている。
そこでは一人の少女、八霧サキが座ってティータイムを楽しんでいた。
「あれがあんたの妹か…」
名前は聞いていたが、立花はサキに俺を会わせようとしなかったのでこれが初対面だ。
「それより君さ、偵察するつもりだったらもうちょっと変装とかちゃんとした方がいいんじゃないのかなあ!」
「いや、あんたがやり過ぎなんだよ」
「どこがよ!?これくらい変装して当たり前じゃないの?」
八霧は通常のスタイルより手の込んだ女装をしていた。それじゃあ逆に目立ってしまうのでは?
「まあ、勝手にしてくれ」
「勝手にって君さぁ、僕一応年上なんだけど!」
さてあの二人、
一体今どんな関係になっているんだろうか…
…
「んー…」
…不快だ
鼓膜をヤスリで削られてるみたいな
ジリジリした音…
額を何かが流れた時、目を覚ました
「…あっつ…」
まだ見慣れない天井、
それも当分はきっと慣れないだろうと
確信のある天井があって
眩しい日差しが真っ白で分厚いカーテンの隙間から差し込んでいた。
体を起こしてみるとその世界は
…夏だった。
コンコン、と扉がノックされた。
「あ…は、はい」
そうだった。ここはもう僕の家なのだ。
新しい家。
「失礼いたします」
扉が開いて、黒いワンピースに白いエプロンのいわゆる使用人が入ってきた。
礼儀正しく深々と礼をした後、にっこりと微笑んだ。
「おはようございます。モーニングティーは如何ですか?」
「え…えっと」
ここは高級ホテルか何かなのか?
毎朝こんな風に使用人に朝の挨拶をされる経験ができるとは夢にも思わなかった。
黙っていると、使用人はまたにっこりと微笑んだ。
「先にお着替えの方が宜しければそのように」
「い、いえ!いいです、大丈夫です」
でも、たしかに体がベタつくような気がする。
滅多にかかない汗の感覚…
「空調の設備が整っておらず申し訳ございません。
こちらは歴史ある建物で、お母様はあまり改装や空調の新設には気が進まないようで」
確かにこの洋館は明治時代の雰囲気を感じる。
「ああ、なるほど…」
「冷たいお水をお持ちします」
