
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
サキちゃんはいつもと変わらない笑顔だった。
確かに、ここの使用人は報酬ありきで主人に仕えているし、サキちゃんをお嬢様として扱う人々も彼女の母親の権力ありきでつきあっているのだろう。
そうなると、どこまでが利害関係があって
どこまでが純粋な友好関係なのかわからなくなる。
友人でさえ、信じられなくなるかもしれない。
「人を信じられないってわけじゃないの。
でも、いつも考えちゃうの。
この人は本当に私自身を見てくれるのかなって」
サキちゃんは僕を見た。
「だけど、夕紀君と遊んでる時はそんなこと考えもしなかったな。ただ一緒にいられて嬉しかった。」
あの日の帰り道、サキちゃんが走って行ってしまったのを思い出した。僕は唯一の友人がいなくなって
とても苦しかった。
「私のこと、好きになってくれなくてもいいの。
他の人が好きでもいいの。夕紀君が私を好きじゃないってことはわかってるから。だから、私と恋愛ができなくてもかまわないから、側にいてほしいの。
夕紀君のことを見てると、安心できるから。
私にも人を信じる事ができるんだって思い出させてくれるから。」
僕にはその言葉に心当たりがあった。
だからこそ、何も言えなかった。
黙ったままの僕に、サキちゃんは続けて言った。
今まで吐き出さなかったことが
堰を切ったように流れ出てくるように
「私、今まで沢山の人とお見合いしてきたの。
それは次期社長とか御曹司みたいな、ものすごい人達でね、普通の人じゃなかったの。
それが理由かはわからないけど、全然その人達のこと好きになれなかった。
お母さんは私の好きなようにして良いって言うんだけど、やっぱり毎回断るのが苦しくなっちゃって」
サキちゃんは決まり悪そうに笑った。
「だから、これ以上誰かを傷つけないためにも
どうにかして好きな人を見つけようと思って色んな人と話してみたけど…」
見つからなかった、と言って俯いた。
「探しても探しても見つからないの。
最初、好きかなあって思うじゃない?
でも話したりして時間が経つうちにね、好きってどういうことかわからなくなっちゃうの。
つまり、なんだろう…
恋って多分、気の迷いみたいなものじゃない?
だから少し冷静さを取り戻しちゃうとすぐに冷めちゃうの。つまんなくなっちゃうの」
