
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
僕には人を好きになった経験がほとんどないから、
恋がつまらないとかどうとか思ったことはなかった。
恋って、なんだ?
「多分私、ほんとは結婚なんてしたくないんだ」
「え?」
「ごめんなさい。今更だし、夕紀君に苦しい思いさせちゃったのは全部私のせい。ごめんなさい。
だけど、私は結婚なんてもうどうでもいいの。
だけどお母さんがね、私は結婚するべきだって言うから…それに逆らうことはできないの。
だから夕紀君に…助けて欲しくて」
「結婚なんていいもんじゃないよね」
「そう思う?」
「うん。だってそりゃあ、結婚して幸せになれる人はいっぱいあると思うけどさ。
僕には良さがよくわかんないな。
一人は多分寂しいし、歳をとったら余計に生活が大変になって助けてくれる家族もいなくて一人で死んでいくことになるのかもしれないし
それって本当に不安で苦しいと思うけど」
サキちゃんは空を見上げていた。
僕は庭の花を見下ろした。
「今はそんな未来のこと、遠すぎて考えられないよ。誰かとずっと一緒に住んで暮らすとか無理だな。きっといつか疲れて逃げ出しちゃいそうで」
僕が他人とずっと一緒に暮らしていくなんて
全く想像もつかなかった。
家族ですら無理だったものを、一体どうしてそこらでたまたま出会っただけの人と、本性もわからない、恋が終わった時の素顔もまだ見ぬ人とできるだろうか。
昔は好きだったのに、なんて言うくらいなら
僕はそうなる前に離れたい。
「それなら最初から結婚なんてしなきゃいいやって、そう思わない?まあ、どうしたって僕はできないけど」
最初に結婚をするのが男女だけだって決めたのはどこのどいつだろう。ぶん殴ってその法律書き直せと言ってやりたい。
いや、結婚がしたいかと言えばそうでもないんだけど
最初からその権利だけが剥奪されてるって
どういうことだよ
サキちゃんは突然声を出して笑い出した。
「ど、どうしたの」
「いやあ、やっぱり夕紀君って面白いなあって。
そんな風にはっきり言ってくれる人いなかったから。私の周りは結婚しろって口揃えて言うばっかりだから」
結婚って、そんなに気安く進めていいものだろうか。まるで買い物するみたいに決めることだろうか。
まるで天気の話をするみたいに
結婚はする予定ですか?なんて聞くのは
本当に馬鹿らしい
