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触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨



「夕紀君、本当にごめんね。
でも夕紀君との結婚のことは本気で考えてるの。
夕紀君となら結婚、できるって本当に思ってる」


「結婚しても、家にいなくていいし、他の人と住んでもいい。だから、夕紀君が夫ですっていう権利だけ、私にくれないかな」


「じゃあ、結婚しても今と変わらないってこと?」


「そう。何も変わらないの。今みたいに、たまにでもお茶会に付き合ってもらえたら嬉しいけど。
本当に、結婚届を出すだけでいいの」

今と変わらなくて、でも戸籍上はサキちゃんの夫…

どうせ好きな人がこの先できたとしても、
僕はその人とは結婚できないんだし

サキちゃんと結婚することに何かデメリットがあるのかと言えば、ない


「…うん」


「本当に?」

「いいよ。これって多分人助けの一種だし」

「ありがとう!」


サキちゃんが僕に抱きついた。

ふんわりした感触はとても新鮮で柔らかくて
心地よかった。


サキちゃんのことは友人の一人だと思っているけど

それでも今はとても

まるで夢に見た普通の人生を送っているような気がした

少し安心している自分がいた

別に、恋とか愛とか分からなくても
結婚ってできるんだと

しなくても構わないけど
結婚という経験が自分の人生に組み込まれることなどきっとないものだと信じていたから


僕は人助けをすることにした

僕が持て余していた一つの結婚という手段を使って


有効活用できて少し嬉しいくらいでもある
なんて、やっぱり変だな


「なんで笑ってるの?」

「なんか、変だなあって」





「な、なんかめっちゃ仲良くなぁい!?」

オペラグラスを覗いた八霧は嘆いた。

「…まさか、七瀬も本気に?」

「だってほら、抱き合ってるよ!」

「…」

八霧の差し出すオペラグラスを手にとって覗くと、それは本当だった。


「ねえ、本当に七瀬って子はサキのことなんとも思ってないよね?」


「…行くぞ」

高梨はそういうと、森の中から飛び出して行った。

「行くってどこに!?ちょ、ちょっとダメでしょ!
偵察は!?」

高梨は汗を拭いながらスタスタと庭の真ん中を歩いていく。

「直接聞きに行かないとわかんねえだろ!こんなとこで見張ってて何になんだよ」

「いや、元はと言えば君がねえ」

「うるさい早く行くぞ!」

「えええっ!」

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