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触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨







「あのー、失礼ですがどちら様でしょうか…」



そう言って絵に描いたような苦笑いを浮かべているのはその洋館の使用人だった。

なるほど、大した豪邸じゃないか。
しかし七瀬の実家もこれに勝るとも劣らない。

だんだん視線が俺達を怪しむように鋭くなってきている。早く何か言ってやらないと。

「なな…」

「君はちょっと黙ってて!」

「んぐっ!?」

八霧に口を塞がれる。
え、と使用人はサングラスをしたショートカットで赤いワンピースを着た女性をさらに怪しむような目で見た。

「あ、あはは、突然すみません。私達…サキさんの知り合いで。たまたま前を通りかかったので挨拶に来たんですけど」


たまたまって、より怪しいだろう!
しかも俺は何故か八霧の私物であろう金髪のウィッグを被せられており、よく見ればすぐに被っていると分かる違和感のある光沢した毛色だ。

一応、と言って黒縁のメガネも渡されかけてみたものの、さらに怪しさを強調している気しかしない。

こんなのが知り合いなんて誰が信じるんだ?

もちろんそのしっかりと俺達を不審者だと認識した使用人は冷ややかな目で対応を変えた。

「えー、少々お待ちいただけますか?ただ今確認して参りますので」

なるほど、礼儀として確認はするがサキと面識が有ろうと無かろうと俺達を快くもてなそうという気は毛頭ないらしい。当たり前だ。

「いや、ちょ…!」

ここの持ち主であるはずの八霧が慌てて使用人を止めようとする。止めなければサキがノーと言って追い払われること間違いなしだ。

素直に素顔を晒せなどと言われたならばその場でどこかヤバイ所へ連行されるだろう。

何故なら俺はこんな白塔組の《聖地》に近寄っていい身の上ではないし、もしここに来たことがヤツにバレたら殺されるかもしれない!
お嬢に近寄るな…と

銃を突きつけられたら何もできないのが人間の弱さだ。それならば俺は、今できる最大限の力を使って銃を突きつけられるような事態を避けるほか道はない。

仕方ない、こんなこと今まで幾度となく繰り返してきたことだ。今更躊躇する理由はない。
どうにかして、この窮地を切り抜けてみせよう。


「待って、お嬢さん」

「…ぶっ」

「は…はい?」

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