
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
君達の仕事を責める資格はないけど」
気持ちよくなるために利用しておいて
今まで散々、都合よく利用してきて今さら
今更俺たちを責めるなんて
まあ
そんなこと
気にも留めない
どうだって構わない
人間はいつも自分の愚かさには気づかない
「…もういいけど。あんまり女の子のこと好き勝手にしてると」
だから俺は今もまだ、こうして
伊織は八霧の横を通り過ぎて足を早めた
「…七瀬」
ピアノの音は確かに
白い羽が降るあの音は確かに
聞こえている
その羽をまだ
その羽でまだ上を目指して飛ぼうとする
それはどれだけ辛いのか
どれだけ苦しいのか
《あんまり、好きじゃないんだ》
君はそう言った
そう言いながらもなお
それでも弾き続ける
飛ぼうとする
光を目指して飛ぼうとする
なぜ
なぜ
もしそれが
もしも
もしも君を突き動かしていたのが俺だったなら
《それ弾けたら、名前教えてあげる》
もしも
いや
そんなはずが
いや
もしかしたら
そう思って君を探した
そしてまた今も
君に会いに来た
確かめに来た
もしも君がー
まだ俺のことを
ピアノが聞こえくるのは確かに、この扉の向こう
扉を開けて君を見る
そして確かめる
七瀬はそこにいた
ピアノがあった
神々しく白い羽が舞う中に
君はいた
涙を流しながら弾いていた
気がつけばその姿に近づくことも出来ず
ただ遠く遠く感じた
そしてその姿の美しさに涙が流れた
ああ、あまりにも世界が違う
白の世界
俺が近づいてはいけない
その白を塗りつぶしては
その手が震えつつ鍵盤から手を離した
もっと聴いていたかった
しかしそれは叶わなくて
隣にいた彼女にその身が預けられた
彼女は抱きしめて慰めた
そして七瀬はその腕にしがみつき繰り返し呟いた
先生、先生、…
わかった
その白は俺の為に作られたわけではないと
今更
「もういいの?」
八霧は驚きながら俺の後について歩いてそこを出た
