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触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨


扉の向こうに声をかけた。
するり、と扉の隙間から二人、男が入る。

「本当か?ちゃんと確認したか?」

小声で確認される。

「そんなに信用ならないか、俺が…」

ジャケットを脱いでベッドの上に置く。
シャツの袖をまくり、七瀬夕紀の顔を覗き込む。


「…寝たな、高校生」

「…」

口を少しだけ開いて
すー、と何も知らずに呑気に眠っている。

髪の毛が猫みたいにふわふわでさらさらしていた。
色が薄くて、月明かりのせいか銀色に見える。

前髪がかかる額はとても白い。
粉をはたいて作るような白さとは全く違う。

その白さはその奥の血液や肉の赤みを透けさせる、
そんな生命力のある白さだ。

鼻先が上品に整っていたり、頬骨が綺麗にカーブを描いていたり、目と眉の間の窪みが深めだったり、
上唇が薄くて口角が自然に上がった形だったり…


「何してるんですか?ちゃんと寝てるか確認できました?」

ああ、と思い出したように頷く。

「うん、寝てるな。カメラ」

はい、と二人が三脚とカメラをベッド前に設置し始める。

その間もまだ、その顔を観察していた。
仕事柄、人の顔をじっと見るのが癖になっているようだ。

特徴や個性を発揮させるにはどうしたらいいか…

顔をじっと見ていてその造りの良さに感心することは多いが、この顔はそのような感心をおこすようなものではなかった。

それよりも、不思議な感覚だった。

何という感覚だろう、
とにかく今までには感じたことのない感覚だった。


「…睫毛どうなってんの?それ」

閉じられた瞼の先から伸びる睫毛は二層、三層にも重なって邪魔なんじゃないかというくらいに贅沢に
長く、本当に“地毛”かと疑う程だ。

今時男子がつけまつげをしていても不思議なことではないが、確認するまでもなくやはりそれは天然物だ。

その長い睫毛を眺めながら、やはり不思議な感覚を覚える。

「ん…」

喉仏が動いた。
その熱のこもった声は顔の印象に似合わず低めだ。

安らかに眠りつつ、その首筋には汗が滲んでいる。


「…ただの高校生、か」

そして、見た目が神々しく、秀麗な。

「桃屋さーん撮りますよー」

カメラの前に立つ男は気だるげに言った。
私も同じように、気の抜けた声で答える。

「了解、じゃあ始めよう」

そっとベッドに乗り、また七瀬夕紀の顔を見た。

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