
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
でもそれは、本当に君のお望みかどうか
まだわからないけどね
………
で、
これから、という時に邪魔して悪いね。
悪いなんて思っちゃいないけど
そう言う建前って大事なんだろ?
まあ、どうでもいいけど。
とりあえず、
私の話をまだ聞いてもらってもいいかな?
…まあ、嫌ならいいよ。
こんなもの読んでないで他に好きなことでもして
暇つぶしたらいいよ。
だけど私はまた、こんなとこまで来て小遣い稼ぎしてるんだ。
「はい、螢光出版ですー、あ、どーもどーも!
先日はお世話になりました!はい!」
古いビルの扉を開けると、階段から声が聞こえてくる
どんだけデカイ声で話してんだ
「いやあ、おかげさまで特ダネっていうんですかねえ、もうあの特集のおかげでバンバン売れちゃって!
ええ!いやあー!」
その階段を下りると、怪しげな雰囲気のネオンサインが顔を出す
《Never-Heard-Of》
…《初耳》だとさ
確かにここに来れば誰も聞いたこともない話を聞くことができる
嘘か本当かわからないが。
「ええ、あっはっは!困ったもんですよ!
こないだなんかねえ、怪しいヤクザが訪ねてきましてねえ!」
まあ、物騒な話しか聞かないが。
鈴のついた曇りガラスの窓がついた扉を開ける。
カランカランと音が響く
「ちーっす社長」
声をかけると、社長は受話器を片手に大声で話していた。
「お、あむりん!…ああ、すみません!
え?いやいや、バイトですよ、大学生の!
本当に最近の子はねえー!いやあ真面目真面目!」
かかか、と笑う姿は爽快だ
ふう、と息をついて革のソファに腰を下ろした。
リュックから写真の束と円盤を取り出して
書類やら雑誌やらでごちゃごちゃの机の上に放り投げた。
「はい、それじゃありがとうございます!失礼しまーす、はーい!」
ガチャ、と受話器を置いた
「…ヤクザってなんの事っすか」
「ああ、気にしなくていいよ!で、今日は何持ってきてくれたのかな?」
社長は30代半ばの優しい紳士だ
そんな性格、こんな仕事には不釣り合いだが
「これ、前話した婚約者」
ポッケからタバコを一本取り出して火をつける
狭い部屋には一気に煙が充満して霧っぽく、
視界が悪くなる
