テキストサイズ

触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨



ベッドに座っている七瀬夕紀の影が見える

「…まだ起きてらしたんですね」

ベッドの横に近づくと、その顔は少し眠たそうに見える

普段、七瀬夕紀は23時には眠っていた。

「はい、…実は最近眠れなくて。
それで、聞きたいこと…なんですけど」

七瀬夕紀は思ったよりも自然な態度だった。
まるで昨日のことなどなかったみたいに。

「ええ、何でもどうぞ」

こんな風に丁寧な言葉遣いを高校生相手にするというのもおかしな話だが、これが結果自分の収入に変わるのだから馬鹿にできない。

何でもどうぞ、と言われたその高校生は突然目を伏せて口を噤んだ。何か鬱屈とした表情だ。

なんだろう、やはり無理矢理されたことで気を病んでしまったのだろうか。今更、そんな顔を見せられて後悔の念を薄々感じ始める。
自分にそんな人間的な感情があったとは、と呆れ半分に思いながら。

ようやく、口を小さく開いた。

「…あの、桃屋さんにこんな事を聞くのはおかしいかと思ったんですが…」

一度言うのを躊躇って、また口を開く。


「僕は実は、サキさんのことが好きではないんです」

え、と小さく声に出た。
予想していた話題と違ったのは幸か不幸か…
少年は驚く私に気づかず、話を続けた。
たしかに苦しんでいるようだが
その口調はむしろ他人事のようでもあった。


「もちろん、人としてというか友人としては
大切な人だと思っているんですけど…
恋愛とは違うんです。わかってもらえますか」

そんな相談を一使用人にして大丈夫なのかと心配にもなったが、それがどうなろうと私の責任ではないしどうなろうとそれを無効にさせるのが私の目的だ。

「…ええ」

この相談にのってうまく誘導すれば、いずれ2人は婚約解消へ勝手に進んでいってくれるかもしれない。そうすればまた、この家には新しい《情報源》が入ってくる。


「だから僕は始めは婚約なんてしない方がいいと思ってたんです。立花…さんの圧力もあって拒否権はなかったんですけど。それでも、サキちゃんのためにもやめた方がいいと思ってました。でも彼女は婚約を望んでいて、僕が結婚相手になるならそれだけでいいって。それ以外には何も、僕からは望まないって言ってるんです」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ