
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
「そうだったんですね。それでは何故サキ様はそれほどあなたに結婚相手になってほしいのでしょうか?」
「…僕にもよくわからないです。でも、僕は彼女の幼馴染で親友でもあったから、彼女としてはよく知らない他の見合い相手と結婚するよりは良いと思ったんじゃないでしょうか。これ以上、お見合いを続けるのは嫌だとも言っていましたし」
「それはつまり、サキ様はあなたでなくとも、
例えば他の親しくて理解ある男性ならば誰でも構わなかったということですか?」
「…そう、かもしれませんね。僕じゃなきゃいけない理由は特に…思いつきません。はっきりと理由を聞いたことも…」
「それでは、まだ婚約を決めるのは早いのではないでしょうか?出すぎたこととは存じますが、サキ様も夕紀様も、まだ高校生です。
たしかにサキ様のお母様はサキ様に早くお相手を決めてほしいとお考えですが、サキ様がはっきりとご意向を示して結婚の意思はまだないと仰ったなら、
お母様もきっと理解してくださるでしょう」
少年の表情は曇ったままだった。
暗がりでも映える白い肌は相変わらずだった。
「そう…ですね。もっとサキちゃんに考えを聞いてみようと思います。考え直してみるように…」
自分を納得させるように頷いた。
きっと、今までもそんな風に彼女から話は何度も聞いてみたのだろう。それでも何も分からないのが今な訳だ。
この少年も大変な事に巻き込まれてしまったようだと、他人事ながら気の毒だった。
それをさらに気の毒なことにしていくのが私なのだが…
「それがいいでしょう。…お茶、いかがですか?」
少し冷めかけているポットから、白いカップに紅茶を注いだ。
「…頂きます」
彼は少し躊躇った。
昨日のことはまだ話題に上がらないが、
気にしていないのだろうか。
どうぞ、と渡すと彼の眼鏡の淵が少し曇る。
「これは、昨日の夜のものと同じ…ですか」
ついに来たかと身構えたが、その口調が変わらず淡々としているのでやはり不思議に思った。
「…いえ、ですがもし眠れないのでしたら、漢方薬を入れれば昨夜のものと同じ効果が得られます」
漢方、と呼んだ粉末の包みを見せると、彼はそのまま紅茶を飲んだ。
「そうですか…」
もちろんこの粉は漢方薬などではない。
この一家のパトロンになっている白塔組が密造している媚薬だ。
