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触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨



死ぬか、今


そう聞かれたら
すぐに頷くつもりで生きてきたのに


いざ、水と粉で喉を塞がれ
陸で溺れている僕は
頷くのを躊躇っていた

人間なんてそんなものと嘲笑っているのは

神か?僕か?それとも桃屋か


「っ…」


本当に、死にたかったのに


気がついたら飲み込んでいた


そうしたら、息を吸えた



「っは、はぁっ、っ…は、」



喉を水が通って胃へ落ちた

心なしか、少しずつ体温が元の温度へ上がっていくような気がした

包まれるように温かくなった

どうやら、死ぬ薬ではなかったみたいだ

よく状況がわからないまま桃屋を見ると

汗ひとつかかずに僕を見つめ返していた


「禁断症状です」



キンダンショウジョウデス


《七瀬》

「ん、…?」


チカチカ光ったまぶたの裏に
こもった耳の遠くに

幻想、幻覚、幻聴、


…現実?


《ごめん、一人にして》


桃屋がいた場所に、…高梨がいる



《俺のことまだ、好き?》


なんだ、そこにいたのか
って、なんで?


《もう嫌い?》

何を、突然…


《そう》


何が。


《本当に?》


高梨が腰を屈めてベッドに手をついた
顔が近づけられる

逃げ場はなかった

あの目が、僕を見ている

なんで、なんでここにいるんだよ


《七瀬、してよ》

ドクン
心臓が跳ねた

「ぁ、っ」

体温が上がっていく
血液が頭にのぼる
全身が熱くなる
爪の先まで神経が研ぎ澄まされる

体の中心から奥から
じんわりと
しあわせな感覚が広がってくる

「っ…んっ」

引きむすんだ唇からも甘えた声が漏れて


《ねぇ、してくれないの?》


なんで、そんなこと
いなくなったのはそっちだろ

それなのに

「っぃ、っう、ぅっ、んっ、」


《寂しかった?ごめん、ごめんね。
俺も寂しかったよ》

嘘だ…


《ずっと七瀬のことばっか考えてた。
そしたら毎日眠れなくてさ
七瀬のこと思い出しながら一人ですんの
すっげえよ止まんねえの》


腰の骨をトントン、と冷たい指先が叩いた

「ふ、っ…あ、あああ、っ」

それだけで軽くイった

《また泣いてるとこ見せてよ
俺で気持ちよくなってぐちゃぐちゃになって
ぶっ壊れてイき狂ってるとこ見せてよ
嫌だって言ってもやめてあげないから
飛ぶまで付き合ってあげるから》

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