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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫

ここで面倒なのが、

いや、海外でも日本の大学を出ているかどうかは重要である

というような反論をされることで、そう言われたら僕は何も反論できない。

しかし、もし僕が学歴だけをプライドにし、自己肯定のための唯一の材料にして生きていくのだとしたら僕は、大学なんて出なくて良いと思う

重要なのは何がしたいか、で

何がしたいかわからないけれどとりあえず行ってみて遊びつつ考えたら良い

という考えなど僕には出来なかった

そんな風に考えられる人はきっと幸せだと思う

とりあえず、で大学を選べて学費も賄えるのだから

そんな幸せなことはきっとない


「あなたは進学を考えていないようですね。
そうであるならば、あなたは仕事を探すしかない。
しかしあなたは自分の手で仕事を探すほどのキャパシティをお持ちですか?」

「う…」

「近頃の若者は、と言いますが私はそうは思いません。いつの時代も若者は悩み、苦しみ、必死に生きているのです。見かけではまるで甘え、怯え、自堕落に生きているように見えていても心はいつも陰鬱とし、常に将来の不安に苛まれているのです。
若者が仕事につけないなど、珍しいことではありません。しかしそれを救おうとする者はこの世に余りに少ない、それどころか世間はそんな彼らを冷たい目で見た挙句こき下ろすのです。
この役立たずの甘ったれ!…と」

桃屋は脅すように大きな声を出した

「もう、やめてくださいよ…」

ふふ、と笑った桃屋はボタンを外し終わり、パジャマを脱がせる。

「ですから私はそんな悩める旦那様を救いたいのです」

桃屋が新しい白いシャツを広げ、僕はそれに腕を通す

「…それじゃあ僕に、俳優として生きていけといってるんですか?」

こんなことを聞くのはまるで子供同士がお互いの夢を打ち明けあって遊んでいるようでとても恥ずかしいものだった

「ええ、まあ、そうとも言えます」

桃屋は白いシャツのボタンを閉め、ネクタイを首に回した

「貴方のコミュニケーション能力の著しい欠如と言ったら目も当てられません。今後、社会で生きていくには些か不安ですね。それを克服していくのが社会人になるということなのかもしれませんが、それにどれだけ時間がかかるか。実際、克服できずに仕事をやめるという人間も少なくありませんから。
一方、もし貴方が芸能活動をしていくなら

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