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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫


忘れようと思うほど忘れられなくなる

そういうことを何度も繰り返してようやく分かった

忘れたいから、忘れられない

覚えておきたいのに、覚えていられない

こうやって悲しく、苦しく、痛くなるたびに
僕の心の中で僕の手を取る人がいた

…先生、先生の声を思い出せません


その代わりに、新しい呪いだけがずっと増えていく

一番強烈な呪いは、ある時からずっと僕を苦しめて離してくれないけど








皆さん、深呼吸をして胸に手を当ててください

私が呪いをかけてあげます



【やめられない呪い】を

怖がらなくても大丈夫、きっといつか解ける
これは単なるおまじない

この呪いをかけられたら、

あなたは苦しいことや辛いことや痛いことが
【やめられなくなります】

その代わりに、

楽しいことや嬉しいこと、面白いことや大好きなこと、時間を忘れる程に夢中になれることも
やめられなくなります


さあ、
あなたはどちらを先にやめられるでしょうか?





「そこのお嬢さん!かーわいいね、
ちょっとそこでお茶してかない?奢るよ!」


ここは夜の街、ネオンと怪しげな看板が光る
道路を浮ついた足で練り歩く派手な服の女性

スーツ姿のサラリーマンと女子高生
見かけは普通の大学生で色々な女性に声をかけるこれまた浮ついた輩


「…」

手を振って、苦笑いをして声をかけてくる男性をお断りする

「ええー?何、この後予定でもあんの?
君何歳?危ないよね若い子がこんなところひとりで歩き回ってちゃあ!俺が送ってくからさー」

こういう時、うまい嘘でも思いついたらいいが
何かを口に出すことすらできない

「ねえー無視しないでさあ、聞こえてるよね?」

無視がしたいわけではないということだけは伝えておこう。こくりとうなづきつつ足は止めない.。

「だったらちゃんと俺と話してよ、目を見てしっかりと!」

やっぱりこんな格好で出歩くんじゃなかった。
でもどうしても行ってみたい場所があったのだ

どうしても…

これ以上付き纏われるのも都合が悪い。
やはりしっかりと事情を話そうか。

「おっ、その気になってくれた?」

足を止め、怪しげな大学生を見る

「うん?何か言いたいことがあるなら言ってよ。
行きたいお店とかー欲しいものとかー
俺こう見えて金はあるから!」

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