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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫



首を振って断る。
…でも、一体どこから何を説明すればいいのか。
それでこの人が納得するかもわからない…
もしかしたら、面白がられて変な方向に興味を持たれてしまうかもしれない…

「ええ?何もいらないってこと?
それじゃあつまんないだろー、俺は、君と遊びたいって言ってるのにさ。可愛い子にはいくらでも付き合ってあげたいんだ」

こうやって人を釣って楽しむ人間は今までにも見てきたから知っている。
可愛いとか好きだとか愛してるとか、
気を持たせるような事をいえばどうにかなると思ってる馬鹿な奴を…


「ねえもっと顔よく見せてよ、君本当に可愛いよ」

自分の顔が嫌いだった
鏡はなるべく見たくない、人とあまり顔も合わせたくない、写真にも映りたくない、顔の整った人の隣に居たくない、大勢の前に立ちたくない、話したくない、目を合わせたくない、

そんな事ばかり考えて、早18年

だから見た目のことを褒められたって信じられない

毎度毎度、気が疲れる

嘘だ、これは社交辞令だ

そうやって自分の頬を叩いて夢を見ないようにしてやらないと、後で苦しむのは自分だから

そして自分に頬を叩かれるたびに
【叩かなくたって十分わかってるのに】
と言って自分が泣き出すのだから厄介だ

でも実際は分かってなどいない、
本当は信じたいのだ

自分は美しいと

こんなことを誰かに打ち明けたって信じてもらえるわけもない

だって仕事が仕事だから…

「…君どっかで会ったことあるっけ?
なんか見覚えあるよなないようなあるような…」

冷や汗が背中を流れる

いやいや、気づくわけがない


早足でその場を離れることにした
やっぱり全部こんな通りすがりに打ち明けるなんてことはできないし、しちゃいけない

口を聞けないので決まり悪いのは仕方ないと思って早足で歩き出す

「ええ?あっちょっと、待ってよ!」

足を早めて逃げ切ろうかと思っていたら
呆気なく腕を掴まれた

掴まれた瞬間、肘に繋がる筋が圧迫されて
電気が走ったように痛んだ

「っ…!」

痛みに顔を歪めた時、自分の腕に他人の手が触れていることに気がついた

触られていると分かった瞬間、
激しい動悸と目眩が襲ってきた

体が石のように固まった



モノクロの映像が脳内で再生される

【大丈夫だよ】

怖い、あの目が、手が、怖い…!

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