
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
「あ、新人」
知ってる声だ
顔を上げると、後ろに黒いマスクをした男が立っていた
顔が見えないから確信は持てなかったが、
長い足と大きい目ですぐにその人だと分かった
「こんな夜中に何してんの」
耳にはさらさらの金髪がかかっていた
子犬のように柔らかく、ほつれの無い
シルクのような手触りを想像する
「あ、あれ?お兄さん、お連れさん…?」
突然現れた第三者が戦うには強すぎる相手だった。
最初に声をかけてきた大学生は狼狽えて苦笑いをした
「いや、俺はただの顔見知りっていうか
遠慮なくナンパしてもらって構わないんだけど」
えっ、助けてはくれないのか。
…と、常に誰かに頼っている甘さに反省する
「ああ、なんだ!それじゃあ…」
「だけどあんたこそいいの?その人、男だよ」
うえっ…そこを暴露されるとは…
「えっ…?」
大学生はまた困惑した
マスクの男と僕を交互に見て、
頭の上にハテナを浮かべている
「え、えっ!?お…男、なん?」
そう、僕は七瀬夕紀
スカートも履いた、セミロングのウィッグもつけた
僕は今日だけ女の子になった
「…すみません、騙したみたいになっちゃって…」
声を出すと、低い自分の声が男であると証明した
大学生は口を大きく開けて、手に持っていたスマホを落とした
「でも、男だってことを理由にして断るのはおかしいかなって思ったしあなたに男だって言いたくなかったし言う必要もないと思ったし、…本当にすみません」
少し頭を下げると、大学生はがっかりしてスマホを拾い上げて舌打ちした
「…なんだよ、そうならそうって早く言ってくれれば俺だってすぐ諦めたのに!騙したみたいになったっていうかさあ、俺が女だって信じてるの面白がってたんだろ?騙して楽しんでたんじゃないの?言う必要ないってどう言う意味?おい」
「あの、そんなつもりなくて…
本当にごめんなさい」
頭を下げると、大学生はまた舌打ちして文句を続けて言おうとした
「ちょっと、あんたやめてやんなよ」
黒いマスクの男はマスクを下にずらした
小さい顔が露わになり、【金剛寺 紘】が現れた
おお…と思わず声が出かけたのは、やはり現役モデルのオーラがそこら中に散らばったから
「…は?何だよ?あんたは知ってたから庇うのかもしれないけど俺は知らなかったんだぞ。先に言うのが筋だろ!」
