
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
「はあ?なんで僕が悪いみたいに」
嫌いになって当然だ
僕は悪くないし
今日は言うなれば復讐をしにいくのだ
「ほら、あからさまに不機嫌になったし。
でも観察のしがいがあるなこれは」
紘は面白がっているようだが、僕にはちっとも面白くないしそれどころか気分は最悪だ
それでも僕はどうしても、このまま社会に出るのは踏ん切りがつかないと思った
僕が元々進学するはずだったところを道を踏み外させたのはあの馬鹿だ
というのもまた責任転嫁しているだけだが、
とにかく一度、殴り蹴りでもしないと気が済まない
今日の計画は紘のお陰でとても上手くいきそうだ
「紘さん、本当に助かりました。今度こそ、行ってきます」
「わかった。じゃあ結果は聞かせて。
どうであれ、素直になった方がいいと思うけど」
素直になるも何も、僕はいつも自分の気持ちには誠実に行動しているつもりだ
紘はそうかい、と言って手を振った
…
「初回のお客様にはまず、今後ご指名になる者を1人決めていただくのですが…」
…初回料金?
ああ、なんだっけ確か初回だと安くなるんだったか
堺さん、ここのオーナーであるが僕には全く気づいていないようだ
男性客も断っているわけではないと聞いていたが
僕は鞄からメモ帳とペンを取り出した
「ただ今から1人ずつお客様とお話しして頂いてから、誰にするかを決めていただく形になります」
と言われたが、僕が指名するのは1人だ
僕はメモ帳に名前を書いた
それと、今は声が出せないという嘘も書いておいた
「ああ、彼ですね。かしこまりました。ただ、大変申し訳ありませんが、本日はご指名を沢山頂いておりましてかなりお時間を頂くことになります。彼が来るまでの間、少しばかりお待ち下さい」
構いません、と書くと堺さんは申し訳なさそうに頭を下げてからここを離れた
するとすぐに、何人もホストが現れた
「こんばんはー」
「ちっすよろしくー」
「どうも、初めましてお嬢さん」
…それはそれは、まあ疲れた。
話をするのが仕事だと、随分挨拶が滑らかになるものだと思った
僕もこういう店で働けば、少しは対話能力がつくんだろうか
そうして2時間ほど待っていたら、知っている顔が現れた
「…こ、こんばんはー」
…ん、ん?
僕は思わずその顔を4度見た
「か、可愛いっすねー!」
