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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫



香田千尋だ


「えっと、今日はどちらから」

香田は少しぎこちなく僕の隣に座った
ここのソファーはとても座り心地がいいが
少し幅が足りていないようでやけに距離が近い

僕は至近距離に現れたその顔を見てはっきりと声を出してしまった

「何してんだよ香田」

薄暗い店内にははしゃぐ甲高い声と、
若い男達のコール

遠くで華やかな手拍子と拍手、笑い声とボトルが開けられる音がする中
僕と香田はテーブルの上のキャンドルに照らされたまま顔を見合わせていた

「へっ?俺の名前なんで知って…!」

香田の名前は、この店では違う源氏名で通っている
ようだ
素性を知られた相手に店内で本名を呼ばれるのは中々に恥ずかしいだろう

「ホストってもっとかっこいいものだと思ってたけど、香田でもなれるならそうでもないのかな」

僕らの前の重量感のある丸いテーブルには
二つのガラスが並んでいた

僕がグラスを持とうと伸ばした手首に、腕時計が巻きついていた

「もしかして、七瀬、なのか」

香田は僕の顔をもう一度凝視した
その顔が知っていた頃とは少し成長して
目つきも多少は柔らかくなったように感じる

僕は何故か懐かしくなってしまった


「こんなとこで働いてるんだ。普通に引く」

僕は自分の行動は差し置いて、香田を鼻で笑う

「はあ!?俺が誰のためにここで働いてると思って…」

「知らない、誰のためだよ。もう白塔組の下についたんじゃないの?」

香田は少し怒った表情を見せたが、すぐに気が変わったように怒りを治めた

「いや、…そこに触れるな」

「だって働くにしても、わざわざ高梨と同じ店にしなくたって。立花さんに怒られないの?そもそも高校生がこんな仕事したら補導されるよ…まあ僕もだけど」

立花は僕を捕まえた時、木村千佐都と香田も一緒に
拘束して組に引き入れた。

「いや、これは仕方ないんだよ!バイトは自由にしていいんだって。おっ、おおお前こそ何してんだよ!」

「もうちょっと静かにしてくれないかな。今日は一応女の子って設定なんだから、奴にバレたら計画が台無しになる」

「奴?なんだよ計画って」

「ちょっと耳貸して」

香田に一通りの説明をすると、香田は驚いたようで一時停止した

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