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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫


真剣に相手するつもりなんてないくせに

「だから今はソフトドリンクでも飲みたいかな。
酒はもっと仲良くなったらね」

そして運ばれてきたのはオレンジジュース

「乾杯」

これでは意味がない
計画と大いにずれている

まず僕は高梨に酒を飲ませ、店の規則は知らないがどこかへ連れ出してホテルにでも行き
酔った勢いで…となった時、僕が正体を明かしつつ写真を撮影

枕営業を告発、さらにそれを全世界へ発信してやる
僕は女装してマスクもしているので写真を見ただけじゃ簡単にはバレない
そういう作戦だったのだ
まるで桃屋とやってることが変わらないが、
それが高梨を貶める唯一の方法

しかしそれをやったところで、僕にはなんのメリットもなくて…

ただ、写真を晒し上げるまでいかなくても
僕が受けた仕打ちとはこういうものだと
高梨にも桃屋にも理解させてやりたい
つまり単純に言えば腹いせだ

脅される恐怖を思い知れ!
そして僕は完全に高梨とは縁を切る

学校をやめ、仕事を始める
桃屋の思惑通りになるかもしれないが
僕にはこの道が合っていると思う

苦しくても、誰かに指図されて働くよりは
何倍もいい

だから僕は、ひとまず計画を成功させて
復讐を果たしてからこいつとは完全におさらばしないといけない

僕はグラスに手をつけなかった

「あれ、ジュース飲まないんすか」

香田が僕に言った。
ここはナイスフォローだ。

高梨にお酒を飲んでもらいたいと書く

「どうして?」

高梨は爽やかで柔らかい表情を作る
そういえば、最初に僕が心を開いてしまったのはこの作られた笑顔に惹かれたからだ
今となっては高梨が僕に営業スマイルを向けることはなくなって忘れていた

こうして改めてみるといつもの荒み、歪んだ笑顔と違ってまるで友達になったみたいだ

昔に戻ったみたいだ

何もお互い知らなくて
ただの隣の席の顔見知りで

「そんなに俺と一緒に酒が飲みたいの?」

…あの夜、高梨が酒を飲むまでは
僕らは友人だった

僕は頷いた

もう戻れないあの頃に未練がないとは言えない
けれど、ここでこの笑顔をまだ見ていたいからといって踏みとどまっていても何も生まれない


「それじゃあ、俺のお願いも聞いて欲しいな」

高梨は高いオレンジジュースの入ったグラスを置いた


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