
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
…
「…ごめん、、夜中だからどこも開いてなくて」
高梨は手のひらを僕に差し出した
僕は恐る恐る手をつなぐ
男の手と女の手は、触っただけじゃ分からないか
いちいち気にしないといけないのが苦しい
もし僕が女だったらなんて、嫌でも考えてしまう
「酒飲みたいんだったよね。ていうか君何歳?
未成年じゃないの?」
僕は首を振った
「そう、ならいいけど」
高梨は嘘に気づいているのかいないのか、おかしそうに笑った
お前も未成年だろうが、とは言えないのが悔しかった
「…俺はー!…砕けたくても…砕けられないんだよっ…!おかわり!」
「あいよっ!」
結局、行き着いたのは街角の居酒屋で
少し高級なおつまみをいただきながら
高梨は酒に飲まれていた
僕は頼んだビールを一雫ずつ口に含み、
飲んでいるフリを続けた
さて、十二分に酔ってくれたみたいだが
どうやってホテルまで連れ出そうか
「ええ…?飲み過ぎって、まだまだこれからだろっ…俺はあ…まだ一緒にいたい…っ」
高梨は飲み過ぎて一定の容量を越えると泣き上戸へと転換するらしい。始めは余裕ぶって笑い上戸だった。
「名前!名前…なんていうんだっけ…?」
ああ…考えてこなかった
「ナ…?ナナちゃん…?名前まで…っうう…」
名前を教えるだけで泣き出すほど酔い潰れているらしい。これはどうしたものか。
こんな大男1人担いでホテルまで歩いていくなんて、女という設定が崩壊する以前に無理だ
助けを呼ぶか、呼ぶとしたら
「ナナちゃん…」
高梨が僕の肩に寄りかかる
手加減がないので、物凄く重い
「俺、もう嘘つかないから…
俺のこと見捨てないで」
高梨はナナちゃんの肩に腕をまわした
「学校も卒業出来ないかもしれないし…
多分この仕事も長くは続かないから
責任持って守れないけど」
熱い息が首にかかる
低い声は酒で掠れている
僕の頭ものぼせてきた
少ししか飲んでいなかった筈が
テーブルにはたくさんグラスが並んでいた
「俺とのこと、遊びだと思ってるなら
早く教えてほしいんだ…
それなら早く、割り切らないといけないから
今夜だけ遊んでよ」
肩に回った手は耳を掠めた
「っ…」
声が漏れそうになって唇を噛んだ
いつもとは違う
声を出したら一瞬で男だとバレる
それは絶対に避けないと
