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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫



「大丈夫…誰も見てない」


高梨の体はでかい
僕だって一応平均的な男子の身長、体格であるのに
片腕に納められてしまう

そのすっぽり包まれる感覚はとても心地いい
体を委ねてしまいそうだ

指は耳を弄ぶ
保健室で遊ばれた、あの時みたいに

「っん、…ふっ…!」

大丈夫、絶対
バレない…はず


「声、出たね」

背筋がゾクゾクする
腰にくる快感、鳥肌

呼吸もできてるかよくわからない
沸騰したみたいに体から蒸気があがる

耳の穴を指先がもどかしく出入りする
耳に擦れる音が直接響く

くちゅ

「っ…ぁ!」

舌が耳を舐めた
吐息も唾液も一緒に、生暖かく耳を犯す

た、勃つ…、てか、もう溢れる
スカートの間からないはずのそれが
既に顔を出している

ああ、どうか、気づかないでくれ


「…遊びでいいよ」

高梨はささやいた
蒸気でぼやける視界にも、はっきりと黒い目が僕を見ていると分かった
目と目はしっかり見つめ合った

「…好き」

もし、僕の正体を知ったら
それでもそうやって言ってくれる?


「もう嘘はつかないから」

高梨は手を腰に回した
脇腹から手が服の中に入る

まさか、ここで?
それは駄目だ
今ここで正体がバレては


「ナナちゃん…?」


また、今度

今日はここまでにしておきましょう


ふらつく足で、店を飛び出した

「…う…そ…」

高梨は机に突っ伏し
僕は壁にぶつかりながら夜の街を歩いた

頭が痛いし、前も向けない
足元を見るのが精一杯で

火照った身体は秋風で冷やされて
くしゃみが出た
耳は濡れたし涎で口まわりはぐちゃぐちゃ
涙で目は腫れたしスカートも少し濡れた
舌がひりひりして腰が抜けそう

目を見つめたまま告白されて

それで舞い上がった

馬鹿な…馬鹿な客だ


でも泣ける程幸せだった

女だから、好きでもおかしくないし
女だから、付き合えるし
女だから、結婚できるし
女だから、子供も産める


ああ、幸せだった
女なら、
高梨の彼女にもなれる

幸せだった


このまま騙し続けていられたら…


風が冷たくて、涙が出た
一生、1人なんだと思い知った
でも高梨がちゃんと生きていけそうで
なんか安心した

愛されなくても生きていかないといけない
愛せなくても笑っていないと

何があっても生きていれば
生きてさえいれば…いいの?

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