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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫





「白線の内側まで」

電話が来てた
…誰…?

「もしもし…僕、です…はい、ごめん…ら…さ、
でんしゃ…かえ、ります……」

終電に…間に合った
身体を押し込んだ

「ドア、閉まります」

思いの外、人が多い
窓の外は街頭の灯り

ぼんやりする、あかりもぼんやり

少し暑苦しい車内
もう秋だけど人が集まると熱は籠る

【好き】

あんなに直球で言われる事なんて無かったからか
まだあの顔が頭に張り付いていた

立場も性別も過去も未来も取り払って
ただ1人の人間として誰かを愛していたい
その相手は
高梨かもしれないしそうじゃないかもしれない

深く考えすぎるから恋愛が下手になるって
気づいてはいるのに
深く考えないで行動するのは恐ろしい

だからこうやって別人にならないと
大胆な行動はできない

《旦那様!今一体どちらにいらっしゃるんです?
こんなに遅い時間に、まさかお一人ではないでしょうね》

電話をかけてきたのは桃屋だ
車内だから無視しようとしたが、切っても鳴り止まないので仕方なく答えた

「大丈夫…もうすぐ降りる…」

《全く、今度夜中に外出したらGPSで追跡できるように体にチップを埋め込みますよ?それが嫌なら二度と勝手に夜出歩かないことです。わかりましたか》

「こっ、わ…きをつける…」

あはは、と笑うと不機嫌な桃屋がため息をつく

《全く…くれぐれも気を付けてお帰り下さい。
あなたは一般人より目立ちますから、怪しからぬ輩が襲ってきてもおかしくありません。電車の中では常に周りに目を配って、不審者からはなるべく距離を取るようにしてください。それから…》

「わかってる、もう…きります、」

周りの視線も気になるし…


「次はー、〜駅、お乗り換えの方は〜」

ブレーキがかかり体が傾く
しかし人が多いので鮨詰めでよろける隙間もない

扉が開くと、少し人が出入りする

地下鉄も電車も乗り慣れてはいるが
未だに人混みは少し疲れるし
視線も多く、他人の目や自分の行動に過敏になる
ほんの少し席を探したり
咳をしたり鞄を開いたりするのが億劫になる

誰が見ているわけでもないのに、
常に僕を見張っている何かがあるような気がする

その視線を気にする分、疲れはどんどん溜まって
家に帰る頃には意気消沈で生気も失う
満員電車に乗るのは嫌いではないが重労働だ

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