
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
昔から目つけられてたヤクザに捕まっちゃって
色々と搾取されてるんで
今、収入とかまじでキツいんですよ」
「さ、搾取ってどんな?」
菅野朱莉は怯えて口を押さえた
「いやそんな恐ろしいもんじゃないけど、
テキトーな女とか男とかと寝て稼いで金はそのまま上に回るみたいな。あの組、孤児とか引き取って扶養する代わりにってこういうことやらせてるんで本当汚いんだ。あ、でも俺も親すぐに死んだからあそこの子供の寂しさっていうか虚しさは勝手に分かってるつもりなんで
俺が稼いだ金でガキが食えてるんだったらそれはそれでもう、構わないかなとは思うんですよ
もちろんあの組の頭はいつかぶち殺しますけどね、
けど七瀬がいるうちは…」
七瀬…という言葉が勝手に口から出たことに
一瞬頭がショックを受けてシャットダウンした
「た、高梨…君?」
固まる高梨の前に、ボーイが現れる
「お持ちしました〜」
シャンパンが運ばれてきた
高梨はそれを無心に手に取って空を見つめたまま
栓を抜きグラスに注いだ
「…はー…」
高梨はグラスを一気に傾け流し込んだ
唇から漏れ、首筋まで水滴が流れる
「俺、もう、思い切って告白、します」
「えーっと、誰に何を?」
「菅野さん、忘れててすみません。俺人の顔覚えんの本当に苦手ですぐ忘れるんで
また忘れてたらすぐ言ってください
でも今、忘れられない子がいるんですよ俺
その子に今会ってどうにかしないと
多分駄目なんだよ」
高梨は立ち上がって菅野朱莉にハグをした
「またいらしてください。俺がまだここ辞めてなかったら」
高梨が部屋を出た時、菅野朱莉はソファに倒れ込んだ
「訳わかんないけど…顔が…良い…」
菅野朱莉の顔が覚えられていないのは当たり前だ
目の二重整形、輪郭形成のための骨の切除、
鼻にプロテーゼとその他のプチ整形
それに加えても高梨伊織が顔を覚えられないのは確かで、この後何度か店で会っても顔は覚えてもらえなかった
事実、高橋伊織が【顔見知り】と呼ぶのは余程仲が良い人物のみだ。なぜなら高梨伊織にとって顔を見知っているという状態になるには尋常じゃないインパクトや感情を与えられるか、20回以上顔を合わせるかしかないからだ。顔だけでなく、名前も然り。
しかしその高梨が幼い頃一度あったのみで顔も名前も覚えていた人物が存在したのはご存知の通りだ
