
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
そういえば、と満員電車でみた情事を思い出した
サラリーマンが乳首をいじって遊んだ時
まるで初めて触られたかのように驚いた顔で
指先で刺激されるたび背中を反らせて
蕩けた目でよがって
赤い果実、と呼んで差し支えない
ぷっくり腫れいじめられた乳首が勃起して
俺の体の奥をくすぐった
多分、触ってみたらいい反応が見られるんだろうと思うと余計この体がいやらしいものに見えてしまう
待て待て、仮にもこの人は俺の親戚だと言われているではないか
あの言い方からするとかなり近い
もしかすると兄弟で…
なんて考えて冷静になるのを試みたが
気づけば俺の体も発情して股間が膨らんでいた
「は、はあ…?何考えてんだ…」
あり得ないと思いながら、女か男かもはやわからない目の前の美しいものに目を背けられなかった
ぶー
電話が鳴った
画面は見ていないが、桃屋という男に違いない
七瀬夕紀は目を泳がせて携帯を探した
そして手を伸ばす
「…はい…」
掠れた声は低く、紘の自制を助けた
「…え?なんで…?」
七瀬夕紀は眉をよせた
「辞める?学校も店も?…馬鹿、だ」
誰かが学校を辞める
店とはなんのことかわからない
「いや、…何も、僕が逃げたんだ」
七瀬夕紀の意識が、海の底から浮かび上がるようにだんだんと明瞭になってきたようだった
紘はベッドから降り、隣の自分のベッドへ移った
「…悪い、今日はもう、切らせて」
紘は布団にくるまり、まだ勃ったままのそこが自然と収まるのを願った
「…紘さん、すみません。帰ります」
七瀬夕紀はよろめきながらベッドから降りる
紘も体を起こした
「やめときなよ。今日はもう遅いし…ほら、2時前」
「だけど桃屋さん多分寝ないで待ってるから…」
「じゃあ電話だけして、明日帰ればいいよ」
「…ここにいたら、また紘さんに頼って迷惑かけるから嫌なんです。さっきのことも…全部、何やってんだろうって考えてばっかりで」
思考回路のつながらない中、七瀬夕紀は頭を抱えながら言葉を吐き出した
目に暗い影が落ち、焦りと後悔と混乱に心を乱されている
「そんなに帰りたいなら、止めない」
七瀬夕紀は肩を落とし頭を下げた
「…本当にすみません。ご迷惑、おかけしました」
七瀬は部屋を出ようとする
しかし服をまともに着ていないままだ
