
触って、七瀬。ー青い冬ー
第23章 舞姫の玉章
私が叫んだ時、虎の男は私を一瞥した
秀麗な眉目はおそらく父の求める美しい血の現れ
そのものだった
「…可哀想に」
男は言って、車はこの白の庭園を去った
黒い目は私の目よりもっともっと深い闇にあり
サハルの目よりも光を失った恐ろしい奈落の底のようだった
ああ、私が罠にかかった側だったのか
……
「…な…なんで…」
僕は驚き、目の前に現れた人を凝視した
「説明は後でする、急ぐぞ」
なんでもないような顔で、言う、声
白い肌、黒い襟足、赤い鼻
冬だった、と思い出した
奴は僕を掴んで抱え、部屋を出て駆け出した
自分で自分の体くらい動かせると思って
抵抗しようとしたら
驚くほど体は鈍く、とてもこの速さでは走れないと気づいて身を任せた
この馬鹿が僕を、わざわざ不幸な目に合わせようとこんなに走ったりはしないだろうと
そう信じて疑わなかったのは何故だろう
「また、なんか…やらかしたかな」
「ええ、えらいやらかしましたねご主人様」
「紘さんは、誰?」
僕は車に投げ込まれた。
出して、と言われた運転手は車を出した
「…可哀想に」
窓の外には、紘がいたようだった
奴の言葉から、何か事情があるのだろうと察することはできた。
紘か誰であろうと、疑いたくはなかった
「あの人は敬虔な信徒だ。
ただ、信じてるのは神なんかじゃない」
高梨伊織が言うと、その言葉はとても魅力的に聞こえた。
「悪魔だ」
………
これは、私の悪魔の話。
「それで…収穫がなかったとは、まさか言うまい」
「申し訳ありません、父上」
「ふん、そうか…まあよい。
もし私の願いを叶えない時、お前は罪を償うと言ったからな。イヴァン、そうだな」
「はい、たしかに」
これはある種の、儀式であった
これは審判の日呼ばれる祭事。
父は私たち一人一人に「課題」を与えた。
私の課題は「男」になること
男は体も心も強く、その対称である女を守ること、生かすこと、養うこと、より働くこと、より不器用であること、何事にも恥じないこと、躊躇わないこと、迷わないこと、諦めないこと、性を求めること
17歳の誕生日、私は課題として
「子供を作ること」を与えられた。
それまでは性欲を持つことを戒められてきたが、
17になるとそれとは別に
