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本気になんかならない

第5章 レスポワール

そして俺たちはパコンと頭をはたかれる。

「はい、2人。前に出て問題解いてー」
いつのまにか教師が側に立っていた。

あーあ。
ふたり並んで解答に勤しむ。
同じ罰をくらったその男は、俺をチラッと見て、ニッと人懐っこく笑う。
こいつ、いいヤツ?俺を心配してくれた?
ちょっと嬉しかった。

「ありがとう」とボソッと伝えると。

「え?何で?」と怪訝な顔をされた。

そっかぁ、これが感謝の気持ちかぁ。
生命を助けてもらったわけでもない、特別に労力を使わせたわけでもない。
だけど、その心遣いがひとつの幸せに変化して俺のなかに温かくしみこむ。

今までに言われた"ありがとう"の意味を俺は飲みこめて、ひとりニンマリとした。

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