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好きだって気づいたとき

第1章 色濃い2ヶ月

「はじめまして。僕の名前は甲斐田知哉です。
よろしくお願いします」


冬休みが明けて三学期最初の日に、俺は転校してきた。
これが3年生とか4年生とか5年生とかならわかるよ。
6年生だよ。
大イベントが全て終わって、あとは卒業を待つだけのこの時期に引っ越してきて、友達ができるわけがないだろ?
お父さんの仕事の都合で仕方ないけど、初めて親を恨んだよ。
1番後ろの空いてる席に座ると、鉛筆を鼻の下に挟んで俺を見るやつがいた。
俺と目が合うと、片手を上げて“よっ”て挨拶してくれたやつがいた。 
俺は“何だこいつ”と思いながら、軽く頭を下げた。
休み時間、とくに他の男子から遊びの誘いもなく、クラス委員長の女の子が初日はいろいろ校内を案内してくれた。


「わからないことは何でも聞いてくれていいからね」

「あっ、ありがとう」



俺は心の中で“前の学校に戻りたい!”と叫び、叫ぶたびに大きなため息をつく。
今日の授業で体育があった。 
今日はまとめと言うことで、跳び箱とマット運動をした。
運動はわりと得意な方で、前の学校でもだいたいのことはこなしてきた。
テレビでやっていたように、跳べたやつを残して段を高くしていく。
残ったのは俺と、鉛筆を鼻の下に挟んでいたこいつと2人。


「残ったのは甲斐田と張本の二人か」


最後に学校にある段では足りず、ボールを乗せて高さを増した。
それも俺たちはなんなく跳んだ。
こいつは両手でピースして、蟹のようにはしゃいでいた。
授業終わり、跳び箱を片付けをしていると声をかけられた。


「お前なかなかやるな」

「そう・・・かな」

「俺、張本遼太。よろしくな」

「あっ・・・よろしく」


何か、ちょっと嬉しい。



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