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Memory of Night

第8章 花火


 晃が宵の頬に片手で触れた。

 宵の唇に、そっと自分の唇を重ねる。

 だが一度目のキスは、触れ合わせただけですぐに離した。


「宵もこたえて」


 促すと、宵は一瞬ためらいながらも自分の腕を晃の首にまわした。

 もう一度唇を重ねる。

 舌で宵の唇を撫で、わずかに開いた隙間から口内へと忍び込ませる。

 そこには、前のような強引さは一切混じえなかった。


「……んっ」


 キスは徐々に深くないき、やがてそこに熱い吐息が混じりはじめる。

 首にまわされている宵の手にわずかに力が加わり、鼻にかかったような喘ぎがこぼれる。

 それがなんだかとても愛しく思えて、同時に、手に入らないことがもどかしく思えた。
 銀の糸を引きながら、唇が離れていく。

 長すぎるキスに宵が息を乱していると、耳元をかすめるほどの小さな声が聞こえた。


「――……きだよ」


 晃の声は小さすぎて、キスの後だからか微かにかすれていて、言葉のすべてを聞き取ることはできなかった。

 でもその言葉は確かに聞こえた。

 たった一言なのに、耳から全身に伝わり、ぱらぱらと、心の奥に落ち葉みたいに積もっていく。

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