Memory of Night
第9章 予感
胸の奥がちくりと痛んだ気がして、宵は一度大きく背中を伸ばしてシャーペンを握り直した。
再度プリントに取り組もうとすると、ベッドのカーテンが開く音が聞こえた。
保健室の簡易ベッドは、宵の座っている位置からちょうど後ろの部屋の隅に置かれている。
振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。
「……明?」
「え?」
寝起きでボサついた髪を片手で整えながら振り向いて、明も目をみはる。
「宵じゃん。あんたも具合悪いのー?」
菊池明(きくちあかり)。
宵とは同じクラスで、学級委員をつとめる女生徒だった。
明もどちらかと言えば晃と似たようなタイプの人間だと思う。秀才で、基本的になんでもできるタイプ。
それでも明には気取ったところが一切なく、人によって態度を変えたり媚を売ったりしない。
そんな明と話していると言葉が乱暴なわけでも行動がガサツなわけでもないのに、男友達と話している気分になるから不思議だ。
「いや、具合悪いわけじゃねーけど……」
「じゃあサボリ?」
上履きを履きながらソファーに片手をついて、宵の手元を覗き込みながら言う。