Memory of Night
第9章 予感
蒼白かった頬には、わずかに赤みが戻った。貧血が保健室に来た原因なら、とりあえず姿勢を低くしていればいい。
体の弱い志穂と暮らしていたためか、宵には人の体調や顔色を窺う癖がついてしまっていた。
賑やかな教室よりはここにいた方がいいだろうという一応の配慮のつもりだったけれど。
明はふいに何かを思いついたように顔をあげた。
「……あんたの優しさって、いちいち遠回しでツンデレ風味だよねー」
「……なんだよツンデレ風味って」
宵の質問はそのまま無視で、明はスカートのポケットを探って何かを取り出す。
握った手を宵の前に差し出した。
「何?」
何かをくれるつもりらしい。
宵が手の平を開くと、明はそこに百円玉を二つ乗せた。
「どうせならもっとわかりやすい優しさがいいわ」
明はにこっと微笑んで言った。
「やることがなくなって暇でしょう? 喉乾いた。教室に戻るつもりがないならジュース買ってきてよ。缶コーヒー、冷たいヤツね」