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Memory of Night

第9章 予感


 授業中の廊下はとても静かだった。

 窓が全開の教室から、教師の声と黒板をなぞるチョークの音だけがやけに響いて聞こえる。

 保健室は一階の西側の隅の方。自販機は東側の、部活棟に続く通路の真ん中辺りにある。

 つまり結構遠いのだ。


(面倒)


 それが本音だったが、プリントは明に押し付けてしまったし手持ち無沙汰なのも確かだ。だから文句はないのだけれど。

 自販機に辿り着き、いくつかあるコーヒーのなかから適当に選ぶ。

 落ちてきたコーヒーを取り出そうとした時だった。


「――ねえ、晃センパイってばぁ……」


 通路のさらに奥、部活棟に近い方の部屋から賑やかな声が聞こえた。

 ねだるような甘えるような女子生徒の声。

 だがそんな声よりも、宵が反応してしまったのは女の口から飛び出した名前に対してだった。

 思わず手が止まる。


「ホントにホントに彼女じゃないんですかぁ!? 祭の時に一緒にいた人!」

「あたし、手繋いでるとこ見ましたよぉ!」


 どうやら、これも姫橋祭の話題らしい。

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