Memory of Night
第9章 予感
その話題にうんざりしながらも、どうしてもそこを離れられなかった。
「――違うよ。あの子は彼女でもなんでもないよ」
やはり晃の声だった。
甘いテノール。
ずいぶんと、久しぶりに聞く気がする。
「本当ですかぁ!?」
「うん、本当。ただの友達」
それはいつの間にか聞き慣れてしまった穏やかな優等生の声だった。
ここから姿が見えるわけでもないのに、艶然と微笑む晃の顔が目の前に浮かんできそうだ。
「じゃあ、あたし達とも遊んでくださいよぉ!」
「あたしもー! どっか連れてってくださいよぉ!!」
「いいよ」
即答だった。
「どこ行きたい?」
「……晃センパイの家に行ってみたぁい! お医者さんなんですよねぇ!? お父さん」
「本当ですか!? すごぉい!!」
「良く知ってるね。いいよ。大抵親いないし、好きな時においで」
親がいない時に家に呼ぶなんて、目的は一つしかない。
思い当たるものが酷く不快で、それ以上は聞きたくなかった。
宵は缶コーヒーを取り出し、早足で保健室へと向かった。