Memory of Night
第9章 予感
「あ、おかえりー」
保健室のドアを開くなり、明が顔を上げる。
「ほら、コーヒー。これでいい?」
「ありがとー。大丈夫、ブラック以外ならなんでも飲めるし」
缶とお釣りを手渡すと、明はそれを受け取りながらも宵の手元を覗きこんで軽く首をかしげた。
「宵も何か買ってくれば良かったのに。別に遠慮はいらんのよー」
「俺はいーよ。喉渇いてねーから」
ソファーに腰掛けながら言う。
明はそんな宵を探るように眺めた。
「……なんか機嫌悪くない? コーヒー買いに行かせたこと怒ってる?」
「別に怒ってねーって。コーヒーぐらい。いーからプリントやれよ」
「それなら、もう終わったよ」
「もう!?」
思わず、身を乗り出してしまう。
まだプリントを渡してせいぜい七、八分しか経っていないというのに。
そんな、数分で終わるような問題だっただろうか。
はい、と目の前に差し出され、それを覗き込む。
だが、そこに書かれていたのは解答ではなかった。
「ホントにおまえって……抜け目ねえなぁ」
感心半分呆れ半分でつぶやいた宵に、明は笑った。