Memory of Night
第9章 予感
「けち」
「……おとなしくしてろって。ぶっ倒れてもしらねーぞ」
「大袈裟だよ。そんなに酷い貧血じゃないし」
とは言うものの、一応はおとなしくする気になったらしい。
しばらくの間明は黙って足を組みかえてみたり、髪をいじってみたり、鼻唄を歌ってみたりしていたが、ふいに思い出したように言った。
「ねぇ、宵。一つ聞いていい?」
「何?」
「三十一日、祭来てたでしょう?」
その質問にドキッとする。
思わず手を止めて顔をあげると、明と目があった。
「……行ってねえ」
「でも見たよ。青いゆかた着てたでしょう?」
「着てねーよ。他人のそら似だろ?」
ゆかた姿で化粧までしていたのだから、バレることなどないと思っていたのに。
なぜわかってしまったのか不思議だった。
黒髪でゆかたを着た女性はいっぱいいた。
なんとかごまかしきれるかと思っていたが、明は首を横に振った。
「見間違うわけないよ」
「なんで……」
やけにきっぱりと言い切るので聞こうとすれば、明は右手で自分の目を指していた。
ああ、と思う。