Memory of Night
第10章 雨
晃は濡れて通りづらくなった宵の髪に指を絡ませ、もう一方の手で宵の前髪をそっと払った。
そうして額に、一瞬だけのキス。
晃は唇を離すと、宵の体を自分の胸元に抱きしめた。
宝物に触れる時のような優しいい仕草で。
宵の濡れたシャツから、晃の服にも冷たい染みが広がっていく。
でもそんなもの、少しも気にはならなかった。
「……あーあ。また約束破っちゃったな」
独り言のようにつぶやいて、晃が苦笑する。
「宵。体冷えてる。金のことは心配しなくていいから、早く家に戻って体を温めた方がいいよ」
「……何もしねーの?」
「うん、しないよ」
晃は笑った。
「今宵の目に映ってるのは俺じゃないから」
そこで晃は一旦言葉を止めて、でも、とつぶやいた。
「もしいつか、宵が俺に抱かれたいって思う時がきたら……その時は抱かせて? いっぱいいじめてあげる」
冗談混じりの口調なのに、宵には晃の声は妙に切なげに響いた。
いつの間にか雨は弱まり、しっとりとした空気に包まれる。
びしょ濡れの服が互いの体温で温まるまで、晃は宵の体を放さなかった。