Memory of Night
第10章 雨
それからの晃の行動は早かった。
すぐに近くのコンビニで必要な金を下ろし、再び病院に急いだのだ。
だが、晃は院内には入らなかった。自分の親が働いている病院だ。例えそれが自分の金だとしても、五十二万もの大金を宵に渡したことがバレるのはまずい。
宵は礼を言い晃に先に帰って平気だと言ったのに、晃は首を横に振るばかりだった。
「待ってる」
宵の荷物はしっかり胸に抱えたまま。傘を手渡し、たった一言そう言い添えて、晃は宵を見送った。
志穂の病室に走り、ノックもせずにドアを開ける。
そこには弘行がいた。
志穂につきっきりだった弘行は、気配に気付いて振り向いた。
「……宵くん……」
わずかに息を見出して立っている宵の姿を認め、驚きに目を見はる。
「ずぶ濡れじゃないか……っ! ちょっと待ってなさい! 今、何か着替えを……」
部屋から出ようとする弘行を遮るように宵がドアをふさぐ。
「いいよそんなの。それより、これで早く……手術してやって」
言葉と共に差し出された封筒。銀行のものだ。
その厚みから、入れられた金額の多さが窺える。