Memory of Night
第10章 雨
「……受け取れない」
弘行は瞳を細め、ゆっくりと首を横に振った。
一体いくら入っているのか確認しなくても、高校生がほいそれと用意できる金額でないことくらい、その厚みを見ればわかるのだ。
「この金を君はどうやって手に入れたんだ? まさか闇金にでも手を出してるんじゃないだろうね?」
「違う」
否定の言葉を口にするも、それ以上は何も言わない。
「ちゃんと説明しなさい! 宵くん!」
弘行の手が宵の両腕を掴む。
乱暴に揺するようにして問い詰められた。
「……言えない。でもこれは悪い金じゃねーよ。先生が心配してるような金じゃない」
そう、これは。
今までの金はともかく、この金は一応晃に借りた金なのだ。罪を問われるものではない。
ただ、借りたといえば当然誰にか聞かれるだろうし、そこで晃の名前を出したら医院長の息子だとバレてしまうだろう。
それは避けたかった。
「……助けてやってよ、あの人」
小さな声だった。
両腕の痛みにかすかに顔をしかめている宵に気付いて、弘行が慌てて手を放す。
宵は眠っている志穂の元へゆっくりと歩み寄った。