Memory of Night
第10章 雨
口と鼻を覆う酸素マスク。体中に繋がれたたくさんのくだ。痩せ細った血色の悪い肌。
機械を通して聞こえる呼吸の音が、ひどく弱々しかった。
宵はそっと、右手で志穂の骨ばった手に触れた。
その手はぞっとするくらいに冷たい。
心臓が、どくんと音を立てた。
本当に、死んでいるみたいだったから。
七年前に両親の亡骸に触れた時を思い出した。布越しにでもはっきりとわかる、氷のように冷たい体。血の通っていない人形みたいだった。
志穂も死んでしまう。浅く上下する胸元が、すぐにでも動きを止めてしまう気がした。
「大丈夫だ」
力強い声と共に、無意識に握り締めていた封筒を後ろから抜き取られた。
振り返ると、弘行は封筒の中身を取り出し手の中に広げて札束の枚数を確認している。
数え終えると、宵に再び向き直り言った。
「――志穂さんの手術費用、確かに受け取ったよ」
「え……」
驚きに言葉もなく見上げてくる宵に、弘行がそっと耳打ちする。
「ただし、ことが済んだらこの金をどうやって用意したのかじっくり聞かせてもらうからね」