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Memory of Night

第10章 雨


 言い訳は通用しないよ、と厳しい口調で言い添えて、だがすぐに目元を和らげた。

 宵よりもひとまわり大きな手に頭を撫でられる。


「ありがとうございます」


 弘行の言葉に救われた気分だった。

 深々と頭を下げて礼を言う宵に、弘行は笑顔で大きくうなづいてくれた。

 それから弘行は宵に手術に関しての簡単な説明をした。喉の腫瘍を取り除くことが一番の目的らしい。

 いくつか検査を行い、明日の夕方手術は決行される予定だという。

 宵は一晩志穂についていたいと言ったが、弘行はそれを許可しなかった。


「ダメだ。今日は帰りなさい」

「なんで……」


 食い下がろうとする宵を遮り、弘行が続ける。


「そんな格好でここにいたら風邪を引く。君が体調を崩したら元も子もないよ。それに、明日は学校もあるだろう? 終わってから来なさい。大丈夫、お母さんにはちゃんと僕がついてるから、心配しなくていい」


 優しくて、力強い声だった。その言葉に励まされる。

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