Memory of Night
第11章 罠
志穂の病室は静かだった。晃は部屋の前に立ち中の様子を窺ったが、人の気配は感じられない。
「失礼します」
ノックをし、その言葉と共にドアを開ける。
やはり中には志穂以外誰もいなかった。
医師も、看護婦も……宵の姿も見当たらない。
(……おかしいな)
晃は放課後保健委員の仕事を終えてからここに来た。アンケートの集計だけだったからそれほど手間取らなかったが、三十分ほど足留めをくっていた。
宵はもう、とっくにここに着いているはずなのに。
(手術の説明でも受けているんだろうか)
「――あなたは……確か、宵のお友達の……」
その時、くぐもったか細い声が聞こえた。
はっとしてベッドに視線を向けると、志穂がわずかに瞳を開いていた。
晃が慌てて頭を下げ、名前を名乗る。
宵に病院で会った時、志穂とも一度だけ顔を合わせた。
それを覚えていてくれたらしい。
「あの、宵は……?」
戸惑い気味にそう問う晃に、志穂がゆっくりと首を振る。
ひどく緩慢で小さな動きだったが、その意思表示はしっかりと伝わった。
やはりここには顔を出していないらしい。