Memory of Night
第11章 罠
宵がいないのなら、自分だけここにいるのもおかしな話だ。
「突然の訪問、失礼しました」
そう挨拶して病室を出ようとした時だった。
右腕を掴まれた。
掴むと言う程力は強くない。服の上からでもわかる細い指が、晃の手首に触れているだけ。
引き止められているのだと気付き振り向くと、志穂はコードを気にしながらも上体を起こし、口元を覆うマスクを取ってしまった。
「何してるんですか!」
「平気よ……」
柔らかな笑みを浮かべて言う。
すぐ後には手術を控えているというのに、なんて大胆な行動だろうか。
驚く晃に、志穂は笑みを消して言う。
「どうしても……聞きたいことがあるの」
「なんでしょうか?」
「あなたは、宵のお友達……なんでしょう?」
「……まぁ」
曖昧に返答し、一言一言間を空けながらゆっくりと言葉を紡ぐ志穂の口元に耳を近づける。
言葉を口にすることじたいが今は辛そうだった。
だが話すのをやめようとはしない。
晃の手首を掴んだまま、焦燥を顔に滲ませ志穂は言った。
「――ねえ。宵は、一体なんのバイトをしているの?」