Memory of Night
第11章 罠
男の拳が宵の右腕をかすめる。
かわしきれなかったが、痛みはそれほどない。
宵は殴りかかってきた男の腕を掴み返した。
動きを封じられ、身を引くこともできなくなった男の顔から焦りの色が見えた。
その態勢のまま、宵は男のみぞおちに拳を叩きこんでやるつもりだった。
相手を倒すのに、腕や足を狙うよりも、みぞおちが一番手っ取り早い。
どれだけガタイが良くたって、そこだけは無防備だ。
だが殴りかかってくる別の男の存在に気付いてその攻撃をやめた。
代わりに、掴んでいた男を殴りかかってくる男に向かって力いっぱい突き飛ばす。
「うわ」
軽い悲鳴があがった。
突き飛ばされた男はよろけ、殴りかかろうとする男に当たって動きを止める。
誰かの、舌打ちが聞こえた。
宵も、宵を取り囲む男達も互いに致命傷を与えることができないまま悶着状態が続いている。
ガラの悪い男達は全部で六人だが、実際に攻撃してくる数は四人だけだった。
金髪の男とその横にいる小柄な男は、宵を取り囲む輪の一歩外側にいて、ただ傍観しているだけ。