テキストサイズ

Memory of Night

第13章 吉報


「ああ、もちろんだよ」

「行く」


 志穂の病室に行くため、上体を起こそうと左腕に力を込める。

 だがすぐに、弘行の制止がかかった。


「まだ駄目だ。君も熱が高いし、志穂さんもひどく衰弱している。しゃべるのも喉に負担がかかるからあまりよくないんだ。病状は安定しているし、ちゃんと回復に向かってるから心配しなくても大丈夫だ。あともう少し待ちなさい」

「……そっか。わかったよ」


 なだめるように言われ、宵は起こしかけていた体をもう一度横たえた。

 無事を確認できればそれで十分だ。


「あと宵くん。志穂さんが退院した後の話なんだが、彼女が退院したら……」


 そこで弘行は言いよどむ。


「……したら?」


 視線を宙にさまよわせるだけで言葉を続けようとしない弘行に、宵はいぶかしげに聞いた。


「いや、この話はまた後で」

「はあ?」


 そう言い訳して咳払いを一つ。

 宵は頭に疑問符を浮かべた。


「もう少ししたらまた解熱剤を打ちにくるから、それまで寝てなさい」


 弘行はそう言い残し、部屋から出ていった。

 変なの、と思いながらも水を飲み干し目を閉じると、熱で衰弱していた体は、すぐにまた深い眠りに落ちていった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ