Memory of Night
第3章 秘密
宵は二階のある病室の前で立ち止まり、軽く二回ノックした。
ここへ見舞いに寄るのなんて、ずいぶんと久しぶりだ。
返事はない。そっとドアを開け中を窺うと、微かな寝息が聞こえた。
(なんだ、寝てんじゃん……)
白で統一されたその部屋のベッドの上には、若い女性が眠っている。
大河志穂。
短めの、くせの強い茶色い髪。蒼白なまでに白い肌。まるで少女のようなあどけなさの残る顔立ちをした女性だ。
宵はしばらく、志穂の寝顔を見つめていた。
起きる気配はないし、起こす気もなかった。
乱れた志穂の布団を掛け直してやり、すぐに病室を出た。
弘行から病状は安定していると聞いていたし、顔色も悪くはなかったので安心した。
ドアを閉め、その場を離れようとした時、一人の看護婦と会った。
宵と入れ違いで志穂の病室に入り際、挨拶する。
「こんにちは。お見舞い?」
「はい」
宵はよくこの病院を訪れているため、顔見知りの看護婦も多かった。
この看護婦も、何度か話をしたことがある。
会釈程度に頭を下げその場から立ち去ろうとした時、
「――宵?」
ふいに名前を呼ばれて振り返る。