Memory of Night
第15章 告白
呆れたようにそう返し、宵はわずかな間瞳を閉じた。
頬にかかる睫毛の長さに見とれていると、その瞳がもう一度開く。
「いいんだよ。こっちとしてはさっさと貰われちまった方が都合がいいんだからさ」
かすれた声は相変わらずだが、宵の声色は優しかった。
「幸せになってくれたら十分だよ」
ぽつりとそう言い添えて、晃を振り返る。
そうしてにっこりと微笑んでみせた。
幸せになってくれさえすればいい。それは宵の本心だ。
志穂にはもう、無理をして働いてほしくない。
弘行は志穂の主治医だった人だ。宵からすれば七年も前からの恩師だし、志穂にとってはさらに前からの知り合いだったはず。
性格だってよく知った、信頼できる人物だ。
医者という職業柄経済的にも安定しているだろう。
そんな人と結ばれたのなら、きっと志穂の幸せは保証されるはず。
宵はもう一度カップに視線を落とした。
志穂のことは大事だが、ずっとひっついていたいとは思わなかった。
彼女の幸せが保証された場所にあるのなら、離れていても構わない。
それを時々垣間見ることができる場所にいられるのなら、それだけで十分だった。