Memory of Night
第16章 終章
「髪型一つでずいぶん見た目も変わるんだな。……なんか、誰? って感じ」
「おまえが切ったんじゃん」
「まあ、そうだけど」
もったいなかったなぁ、などと嘆く晃に、宵がうっとうしげな視線を向ける。
もともと髪を伸ばしていたのはヘアースタイルを楽しむためではなく、他に理由があった。
あれは志穂が倒れて病院に運ばれた時。まともに動けず食事もろくに喉を通らない日が何日か続いた。
宵は毎日足繁く病院に通ったが、志穂のために自分にできることなんて何もない。医者である弘行に任せるしかなかった。
そんな状態でただ手をこまねいて見ていることしかできなかった宵を哀れに思ったのだろう。
弘行がこんな提案をした。
『その髪、伸ばしてみたらどう? 伸ばすっていうより大河さんの病気が治るまで切らずにおくのは。毎日その髪に願を掛けるんだよ。お母さんの病気が治りますようにって。そうすれば、きっと早く良くなる。僕が絶対に治すから、宵くんも力を貸して』
そう言って、まだ中学生だった宵の頭をポンと軽く叩いたのだ。