Memory of Night
第16章 終章
もちろん願掛けの効力なんて本気で信じてはいなかった。
神社を背にして罰当たりだとは思うけれど、神様なんて都合のいい存在はハナからアテにしていない。
それでも髪を切らなかったのは、弘行の心遣いが嬉しかったのと、他に志穂のためにできることがわからなかったから。
今思い返すとずいぶんと滑稽な理由だ。
うっかり口を滑らせて、晃にそれを話してしまったのも何か間違えた気がする。
また志穂絡みだと知り晃はある提案をした。
『ならその髪、俺に切らせて。とびきり可愛くしてあげるから!』
『……可愛くしてあげるから!』
『……可愛くしてどーすんだよ』
『じゃあおもしろくするから。任せて』
……もっと任せられない。パンチパーマやモヒカンにされでもしたらと警戒する宵を強引に説得し、髪にハサミを入れたのがちょうど一週間前。
背中辺りまで伸びていた髪は、今では肩にすらつかないほど短い。もったいながってなかなかバッサリ切ろうとしない晃にどうにかハサミを入れさせ続けた結果だ。
「短いのも意外と似合うじゃん」
「それはどーも。男っぷりが上がったろ?」
そう軽口を叩いて、宵は笑った。