Memory of Night
第16章 終章
「どうだかねぇ。宵はもともと女顔だからな」
それだけ言って、晃は浮かべていた笑みを消した。茶色い瞳がわずかに真剣な色を帯びる。
「宵。一つ頼みがあるんだけど」
「頼み?」
「うん。その髪、今度は俺のために伸ばせよ」
「……は?」
本当は、これが一番言いたかったことだった。志穂のためではなく自分のために。
思いも寄らない提案だったのだろう。晃の言葉に宵は大きく目を見開いていた。
だがとりあえず呆れられてはいないらしい。独占欲が強いだのなんだの文句を言われるのを覚悟していたけれど、そんな様子も見受けられない。
握っていた手を離して肩を抱き、晃はもう一度ダメ? とたたみかけた。
「いーよ」
やがて宵は頷いた。案外あっさり返事が返ってくることに驚く。
「ありがとう。好きだよ、宵」
にっこり笑いながら、短い髪のおかげで外気にさらされたままの耳に唇を寄せて、晃は囁いた。
途端に耳たぶが真っ赤になる。
もう何度も言い聞かせているはずの言葉なのに、いまだに宵の反応は初々しい。それがなんだかおかしかった。
「い、いいって礼なんて! 早く作れよ雪だるま!」