Memory of Night
第1章 誘い
だが一分もしないうちにドアの向こうに突然人の気配を感じ、宵ははっとして身を起こした。
身支度を整える暇もなく、ドアが開く。
ドアの向こうに立っていたのは、一人の男子生徒だった。目前の光景に驚いたように瞳を見開いている。
(コイツ……)
それは、宵には見覚えのある顔だった。同じ学年の、確か四組の大西晃(おおにしあきら)だ。
人にあまり関心を見せない宵ですら、彼の存在は知っていた。晃は校内では有名だった。成績は常に学年首席。茶色かがった髪と、スッと通った鼻筋。切長の瞳。甘い笑顔が女ウケのいい好青年だ。
「……あーあ、見つかっちまったし」
宵は情事の痕を隠す為、肩に羽織っているだけだったワイシャツのボタンをかけ直した。
だがこの状況では、ごまかしようもない。
……見つかった相手としては、最悪。
相手は優等生。こんなところで何をしていたのか知れば、即行で先生にチクられかねない。
だが宵の心配をよそに、晃はやけにけろりとした様子で言った。
「さっきここから出てきた人、君の恋人?」
「は?」
「ヤッてたんだろ? ここで」