
仔犬のパレード
第2章 小屋
智「…」
……
雅紀が居なくなって静かになった廊下
智はその子を抱いたまま動くでもなく
智「……」
…………
流れる無言の時間
こんな時は
翔「…なあ」
智「ん」
話しかけて欲しい時だ
と思ってる
翔「なんで教えてやんねーの?」
智「あ?」
翔「和也だろ。その子の名前」
智「…ああ」
翔「なんで?」
智「だって寂しくない?」
言葉に合わせ 寂しそうな微笑を浮かべた智
翔「寂しい?」
智「まだ、返事貰えてない」
翔「?」
智「この子が目が覚めた時、ここに居たくない。って言われたら寂しいだろ?」
翔「…え…でもさ、さっき…」
智「ここから出して。って言われただけだ」
そして今度は愛しそうに、その子を見詰める
智「名前呼んじゃったらさ
手放せなくなるじゃん?」
翔「…………じゃんって…」
ん?とその子から視線を外し俺を見た智に
ううん。と首を振ったけれど
だってもう、遅くね?
手放す気。あんの?
…
……だって潤にしたって…
…………知らね
俺が口出すことじゃない
翔「点滴 取ってくる」
智「…あ、翔」
倉庫に足を進めようとした俺を止めたのは智
翔「なに?」
智「ちっと屈んで」
翔「は?なんで?」
智「あ?いーから屈めや
もう腕が限界なんだよ」
チッ。と舌が鳴る
…また、そうやってすーぐ機嫌悪くなるしぃ
俺、今日はまじでもう限界…勘弁してよ…
なんて思ってても智に逆らえる訳はなく「…なんでしょう」と渋々頭を下げた…
翔「ン、」
同時に、俺の唇に触れたのは智のそれ
翔「…、」
その唇は ちゅぅ。と大袈裟に音を立て、1度離れ また塞ぐ
翔「ンッ…」
俺と智の間にいる その子
硬く瞼を閉じ死んだように眠る
こんな何処で こんな状況で
当の智は全く気にしてない
クチュ…チュ…
静かな廊下に響く唾液の絡む音
器用だな。と
体温の低い舌。それを追い掛けながらそんな事を思う
最後に薄く糸を引いた唇を、ペロっと舐めて
智は離れていく
智「帰ったらなって」
そう瞳を細める顔は、背筋がゾクッとするほど艶っぽく
酷く美しい━━…
